テレビをボーっと見てんじゃないのよ
ちょっとしたテレビ技術者なら誰でも知っていることですが、「テレビ編集は洗脳技術」です。
あるとき、たまたま私用でいたイベント会場での講演会を聞きました。元NHKアナウンサーさんの講演会で、こう言ってらっしゃいました。「我々は角度を30度くらいのふり幅をもって伝える」と。テレビの前の皆さんは、ビール飲みながらお腹かいて、あわよくば寝転んでテレビを見たりするから、心のふり幅ほぼない状態です。なので、作り手側のほうがふり幅つけて届ける。
分かりやすい”ふり幅”の例としては、バラエティ番組の過剰なテロップ、SE、笑い声とかが具体的です。ボーっと心が動かない人の注意を引く。知らないうちに、見ている人の思考を奪っていきます。ちなみに、私も、やるときは奪うか押し倒す方向で全力で作ります(笑)…くらいやらないと、届かないからです。
それにしても、「テレビって何だろう」。技術の人に聴くと「信憑性」だという答えが返ってきたことがありました。なるほどなと思いました。
ただ、「信憑性」と上記の「ふり幅の角度」を足して勘違いすると、「やりすぎ報道」が誕生とすると私は見ているんですよね。重大な事件事故時の、被害者か加害者に対しての倫理・道徳的に疑問があるタイプのやりすぎた報道。だいたい、キー局発信が多いですが。そうした放送を見た後で、地方局内ではこんな反応が…
「俺、この仕事辞めようと思った…。俺たちってハイエナ?」
若い技術者がつぶやきます。
と、ベテランさんがこう突っ込みます。
「いや、ハエだろう…? そこ邪魔って言われたら、どくだろう?」
…冷静さがあれば、ハイエナみたいにしゃぶりつくしはしないだろう。
SNSも何かに振り切ると変わらないのは、変な人間が発信者になるというのも。フォロワー数で人間が勘違いする方向には行くことがありますね。
「やっと来ましたよ!」
テレビ局には各局に「考査」というものがあります。あるとき、CMバンクの彼女がうれしそうに、そう言いました。同じ会社のお弁当仲間の後輩でした。編成業務にいる担当者の審査が通らないと、届いた番組とかCM素材は放送できません。彼女が言うには、担当者が変わったから前は通らなかった考査が今は通りやすくなったとのこと。CMにしても番組にしても、考査が通らないと放送されません。
ネット上の広告は、こうした考査がないので扱う質も格も落ちますね(だからと言って、ビジネス的に勉強しないとか、使わないというのとは別です)。
彼女が、とっても嬉しそうにしていたので、放映初日に思わず私もエアチェック。
「…こ…これは…(笑)」
彼女が「やっと」と楽しみにしていたものとは、ショップチャンネルの「ビリーズブートキャンプ」。ご存じビリー隊長が、ひたすらエクササイズを要求してくるやつ。ノリがめっちゃ新感覚(笑)。…こうしたものも、必ず考査の対象になっています。
業務上、経験のないものを、業務にして発展させていくプロセス
とはいえ、その時の私の仕事はというと、突然ゆるキャラエンタメ方向の広報番組をどうにかしないといけない状態でした。それで、考え方を2つ決めて、実行することにしました。
1.「当てに行く」より「外さない」
まず、考え方としては、「当てに行く」より「外さない」方向で行こうと思いました。基礎がしっかりした方が、最終的にはうまくいくだろうと思ったからです。
それに、私の現在の実力では、「当てに行く」と「絶対外す」自信がある(笑)。なぜかというと、「当てに行く」ための明確な回答が、私の中になかったからです。
そのため、凡打を安打にするということに集中していました。
それにしても、これを放送業務レベルにするには…
…とりあえず、私は「このゆるキャラに魂を入れるのだ」と思っていました(笑)
芝居で役者が舞台に立つのに、「板(舞台)の上で生きる、そのままでいる」っていう感覚があります。そのままで生きたうえでの一部切り取りが、お客さんが見ている舞台で言っているセリフという見方。そんなわけで、そのルールをこのゆるキャラにも採用。
周りのスタッフには、何も言わずにおきました。経験がないと分からないからです。
ゆるキャラパペットの年齢として小学年低学年を設定。
「ハテナちゃんのセリフ、もっとバカっぽい方がいいよね?」
って、企画者の局の人に聞かれて、私はこう答えました。
「そうですね! ハテナちゃん、そんなに難しい言葉分からないし、言わないと思います!」
今どき賢い小学生もいるけど、どう考えても頭良くないバカっぽい方です。スタジオのDrリカってお姉さんに言われて、セリフ終わる前に、一人でとっとと現場に何があるのか突っ込んでいくから、せっかちだし!
「そうか、じゃ、もっと簡単な言葉で書こう!」
と、ハテナちゃんの人格がすでに私の中にあるかのごとく、キャラクターを作っていきました。
画作りでは、大人とハテナちゃんの身長差を具体的にどのくらいで表現するのか…。私が小学生のころ、お父さんの身長のあの辺で……。しかし、ハテナちゃんはこれだから、真にリアル身長だと不自然になるんだよな…。
そこで、参考にしたのがセサミストリート。エルモとかクッキーモンスターたちはセサミストリートの中で「生きている」から楽しい。場面によって、エルモ達の頭の位置が、実は違っていて不自然ではありません。
さらに、ショッピングモールとかで、子供たちの動きを観察しました。
…てことで、外の撮影時は地べたに普通に腰を下ろしてパペットを操る瞬間が必ずありました。そうすると、カメラが回ってないときでもキャラ然として片手だけ動いている感じになりますわね…。
同時に、局の中で昼にやっている再放送ドラマの画割の分析していました。ただ、再放送ドラマはSDサイズの4:3。まだアナログが放映されている。こちらの撮影と放映は、HDサイズの16:9。画角がまるでちがうんです。このHD移行時期は、技術は全国一斉に画作り悩んでいたと思います。
最初はいちいち絵コンテ切って、カメラマンに指示して。ここの局では通常扱わない半端なショットの画角は、カメラを覗いていちいち確認していました。技術だって何が正解か分からないから不安です。
編集中必死で、出来高がよく分からないので放送を確認してみます。それで、頭を抱えました。…映像でコケるの人生で初ww(具体的に何でこけたか覚えていません)。
毎度、現場に行くと「君は負けに行くんだよ」という変な劣等感にさいなまれ、完パケを作るまでは、25m先の直径30㎝の的に矢を放つようでした。ただ、だんだんとこの番組様式でのセンターが分かってきていました。直径30㎝の的は感覚的には見えていたということですから。
2.「いつもこうだ」っていう、安定感を保つ
だんだんセンターが見えてきたので、もう、その位置しか感覚的に見ないことにしました。とりあえず、ハテナちゃんの動きは、私で元に戻せば良いと思っていました。台本、冒頭も「ハテナちゃん」が言ってないっぽい表現だと、毎度変更(一度だけ怒られたかな)。
そうするうちに、深夜枠で短尺なのに、地味に視聴率はあがってキャラクター認知が上がっていき、取材先でも「ハテナちゃんだ」と言われるようになります。
そうして1年がたち、そもそも番組の企画者の局の人がなんと退職。
局から、私に全権を任せるようにしようとする動きがあったのもの、私の技術料が高く局の予算と合わず、現行の通り代わりばんこにディレクションすることになりました。
ほぼ新人くんがやってきました。当然、立ち上げを知りません。でも、視聴率が良いので自分の実力だと勘違いします。ハテナちゃんの動きが下品になっている。…そうか、そうだよな(笑)。…その後、また局の担当者が変わるんですが、「誰が変わろうと」私担当の回で全部元に戻します。
「藤田さんの入っている回は、動きが違うからすぐに分かる」
と、テロップを作るタイトル室のお姉さんたちには言われていましたかね。
不思議なことに、私の回よりそういう局の人がやった回の方が、視聴率が高いんです。私では出ない(笑)。まぁ、県との折衝は局の人なわけだし、立場的なエネルギー差か、とか思ってましたけど。
この番組は丸4年担当しました。私が担当した最後の回が、過去最高視聴率を記録しました。
エネルギーって意外と伝わるものかも…
私はその後テレビを離れて上京し、番組のこともすっかり忘れていました。
思えば、別の事業部で活躍していた同僚のディレクターは、自分の関わった番組をDVDにして時々見ていました。私は基本的に、自分の担当の番組の同録は一切手元に残していなんです。当時は、自分から手離れたものは自分のものでなく、「世の中のもの」と思っている節があって。
数年後のある時、映像仕事を振り返ることになります。そういえばと…「あの写真1枚あると、いい ”持ちネタ” になるんだけどな…」と、ネット上をさらってみました。一応、県の広報番組だったからどこかに資料は残ってないかな…、と。
それでまず驚いたのは、この番組は私が辞めてから4年くらい続いていたこと。…そんなに続いていたのかと(笑)。
そして、最終的に写真資料を見つけたのは、2ちゃん的な掲示板でした。
スレッド主が掲示板に投稿したのは2010年。私がちょうど「中の人」をやってた時期の反応です。「県の広報番組なのに、超ゆるキャラがいる」。スタジオ収録の決め画が2枚出てたけど、1枚は確実に当時の私が入っているのが分かります(笑)。
…形がゆるくても、後の設定と継続努力次第で伝わるものがあるのか…。そのスレッドを読んでしみじみ思いました。エネルギーって、伝搬するのか…。
また、テレビを離れて数年後、顔なじみの外注の音屋さんと再会しました。
氏は、私が上京してからもテレビ関連を続けていると思っていたようでした。放送とは離れていることを知って、少し残念そうでしたけど。
「あの頃、頑張ってた局の連中は、みんな上に行ったよ…」
たぶん、営業のあの方、事業のあの方、元記者のあの方、パパっと頭に浮かぶあの方々が昇格昇進したとしたということだろうと思うのだけど…、氏の中の企業内青春ドラマの中に、私もいたってことですね。ありがたいことに。
ちなみに、上記のようなことを言ってから、実際の写真を見せるとあまりのキャラの緩さで、驚かれます(笑)。
キャラクターを製造するときに、どこまで「生きてるか」どうか、で、結構ファンは増えていきますね。あとは、制作者がどんなに泥んこになっても、作り続けることができるかとも大事だと、この経験を通して思います。