元テレビDがSNS動画を観る・6 報道とエンタメの画作りの差

SNSでもないキー局でもない一地方局の話

2023年3月の富士山

「ここ、局アナでも使えるから。藤田くんなら楽勝だろう?」
 って、部長に案内された、サブ(スタジオ副調整室)は昭和が生きていました。
 局の中に勤務し始めたころのテレビ業界はまだアナログ放送で、サブも結構年期が入っている状態。今思えば、技術の長ともいえる先輩I氏が、ちょうどおかしくなったブラウン管の波形モニターを調整していた最中。「…ん」とI氏は、波形が表示されてクルクルしているブラウン管をブッ叩いたわけです。
 時は平成だったのですけど、昭和のお約束「家電は叩いて直す」みたいなことを、平然とやっていて、「うわー…」と思ったのが2005年、地上波での勤務初日でした。

 そんなサブが、それから一年後、デジタルに移行すると設備が一新されました。
 でも、放送業務は止まりません。

2006年 撤去前の某局 旧スタジオサブ 最後なんで書きちらかしている
2006年 新スタジオサブ

 それで、何が起こるかといと、「切り替わる1週間でこの機材、業務可能レベルでものにする」ってことなんです。私も、これに付いていかないといけないので、ただただ、叩き込む。一応、アナログでやっていたことは入っているので、その業務がデジタル機器にどう変化してつながっているかわかることが基本です。あとは、トラブルシューティング。

 このときに、先輩たちの覚え方も学びましたね。チビカメで動画でメーカーさんのデモを収録して覚える。技術の先輩たちは、本当に職人さんたちなので寡黙な方が多いんです。 ”覚え方”の行動を参考にしていた先輩は、
「いつか、漫才のスイッチングがやりたい…」
 って、言ってらしたかな。聞いたのは、生放送前の待ち時間のサブだったようにも思うんだけど。
 いつも、子どもに作るついでに自分にお弁当を作っているお父さんで、仕事がない待機時間は、たいてい本を読んでいる人でした。漫才の阿吽の呼吸の、あの空気感を切り取りたいんだ、って言ってらっしゃったかな。

デジタルはキレイだけど、ある意味不便

 テレビ放送がデジタル移行されると、「ピッ・ピッ・ピッ・ポーン」っていう、NHKの時報がなくなりました。デジタルになると、情報のデータ処理時間がかかります。そのために地上波の時間表示は、カチッと変化をしなくなり、ゆっくりヌルっと変わっていきます。
 生放送でそこのスタジオで撮っているのに、オンエアでは1、2秒くらい遅れています。この建物から発信しているはずなのに、むしろデジタルって後退するところもあるんだな、とも感じました。

 Youtubeのライブ配信とか、当初、収録と同じタイミングで見ることができると思っている方が時々いましたけど、局レベルでこれです。ですので、一般だと回線速度と受送信の機材の質によって余計に遅れます。

2023年3月の富岳風穴

「みんな、いろいろ言うと思うけど、頑張って」

 そんななか、とある新企画の県公報番組がスタートします。

 もともと、局の記者さんが先方打合せで、台本頂いて半分演出のみってところだったのです。3分尺の短い番組。それが、年度変わりで企画がまるっと変更になりました。
 局のプロパーさんが企画を通したんだけど、決まっていたのは大枠の構成、固定CGのみ。知ってる人が製作者だったけど。
 細かい演出部分はほぼ、ほおって来られる事態になっていました。大きなてるてる坊主に”?”マークを付けた、ゆるすぎる「ハテナちゃん」というキャラクターが、「なんで?」と県の担当者に聞いていくというQ&Aの番組構成。

んっと…、これは…”キターーーーーーーッ!” ってやつ?

 キャラクターどうすんねん、というところから、構成での頭とお尻のスタジオ収録(思えばその局でもレアなブルーバック撮影だった…)。キャラクターに、誰が入るの? 最初はバイトの女の子が入ってたけど、演技未経験だから動き方がいまいち。で、通常はディレクターはサブにいるものだけど、 「私が入ります」(役者経験がある…)って、ディレクターの私がスタジオに入ることにしました。同録はモニターで確認。インカムでサブにいる技術スタッフに指示。あいにく、何をやってるのか、全部分かるし。
「みんな、いろいろと言うと思うけど、頑張って」と、声をかけてもらったのは、報道デスクでした。

 記念すべき第一回目は、局のプロパーさんターン。私はスタジオ収録までは手伝ったけど、完パケ(完全パッケージの意味:完成品)までは見ていないので、エアチェック(放送を確認することをこう言う)。局内でも賛否両論あったようで、報道が一番と思っているタイプの人には、「県勢番組をこんなにして!」って言われていました。

 私の印象は「”盛り”が足らない」。ほおっておくと、「何か変わったことして当てに行こうとして、ダメだった」パターンだな、と。さてどうする? 私が考えていること、たぶん、みんな経験がない(笑)。

テレビ現場の画作り

 ストレートニュースとかのカメラマンは、まず一枚の絵をしっかりとるように指導されます。
ロングショット、ミドルショット、アップの止まった絵を丁寧に最低4秒以上撮るように言われます。同じ対象物でも、3種類あると編集できるからです。4秒は、確実に何が移っているか確認できる秒数とされています。その後、左右に動かすパン、上下チルトと学んでいきますが、動かす前に4秒、動きの止まったところで4秒静止します。すると、前後も編集で使えます。
 こっちが、「もともとあるもの」を撮るやり方。

 かたや、ドラマの画作りは心情の表現があります。だから、止め絵でも不安定なショットも入ります。たとえば、誰が誰に向けてしゃべっていることが分かるように、2ショット後、肩ごしのショットとか。肩越しのショットって、ものすごい不安定なんですよね。でも、時系列でならべていくので、見終わった時には、自然に感じます。
 こっちが、「もともとないもの」を作って撮るやり方。

 ドラマ撮影で急遽、同僚の技術スタッフが駆り出されていったことがありましたけど、「全然違う」と感想を漏らしていました。でも、逆に、ドラマ撮影ばっかりやってる人が、いきなりストレートニュースはつらいと思います。現場のルールが違いますので。

 ちなみに、SNS動画のドラマ系が少ないのは、それだけ気軽にはできない表現だということだということです。

 映像系の考え方としては、テレビと映画の映像扱いの違いがあって、テレビはラジオの延長線上に画が付いたもの。映画は写真の延長線上にあるものと思うとまた違いが分かります。